伝染性紅斑（りんご病）の経過について

はじめに

伝染性紅斑（リンゴ病）は、ヒトパルボウイルスB19によって引き起こされる感染症で、特徴的な時系列を持つ臨床経過を示します1 2 3。ウイルスの侵入から発疹期まで、約2-3週間にわたる複雑な病態の変化を呈します45。

全体像をグラフにするとこんな感じ↓

この流れについて解説してみましょう。

ヒトパルボウイルスB19は、感染者の咳やくしゃみなどの飛沫感染、またはウイルスが付着した手による接触感染により体内に侵入します2 6。このウイルスは人にのみ感染し、他の動物には感染しません7。

体内に侵入したパルボウイルスは、主に細胞増殖が活発な骨髄などの造血器官で増殖します8。特に赤芽球前駆細胞をターゲットとしており、赤血球の正常な産生に支障を生じさせます9。このウイルスは分裂して増える細胞を好んで感染する性質があります7。

感染後約1週間でウイルス血症が認められ、ウイルス排泄は感染後7日目から12日目頃まで認められます5。潜伏期間中（感染してから4～6日ごろ）の時期は血液中にウイルスが移行してウイルス血症を起こしています10。

この時期にウイルスの排泄量が最も多くなり、周りの人にうつしやすい時期となります10 2。感染力は発疹出現前のこの頃に最も強くなります6。

感染後5～10日に、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛等の軽微な症状がみられます11。多くの場合、頬に発疹が出現する7～10日くらい前に、微熱やかぜのような症状がみられます2 3。

この時期には網状赤血球、ヘモグロビン、リンパ球、好中球、血小板が減少することがあります5。B19ウイルスの感染による造血障害は、抗体価の上昇によってウイルスが排除されるまでの一時的なものです12。

パルボウイルスB19に対するIgM抗体は感染後、約2週間で高値を示します9。伝染性紅斑の症状はIgG抗体が産生され始める18～24日頃から現れます9。

この時期になると、ウイルス血症はほぼ終息し、抗体が認められることから、発疹の出現はウイルスの直接作用ではなく、免疫応答の結果生じた産物の相互作用によるものと考えられています5。

本症特有の発疹は感染後17～18日頃に出現します5。両側頬部に孤立性淡紅色斑丘疹が現れ、3～4日のうちに融合して蝶翼状の紅斑となります11 2。典型的には両頬に境界鮮明な紅い発疹（蝶翼状－リンゴの頬）が現れます1。

顔面より1～2日遅れて上・下肢に対称的に小豆大～爪甲大の斑状丘疹が出現します5。続いて手・足に網目状・レース状・環状などと表現される発疹がみられます1 2。四肢の発疹は、網目状、レース様または大理石紋様と称されます11。

これらの発疹は1週間前後で消失しますが、なかには長引いたり、一度消えた発疹が短期間のうちに再び出現することがあります1 2。発疹消退後にも日光、寒冷、入浴、外傷、情緒ストレス、摩擦などの刺激で再出現します5。

特徴的な発疹によって臨床診断されることが多く、この時期にはすでにウイルス血症は消失しており感染力がないため、標準予防策で対応します13。発疹が現れたときにはウイルスの排出はほとんどなく、感染力もほぼ消失しています2 1。

りんご病の子の幼稚園・保育園・学校への登園・登校は禁止する必要は医学的・社会的にありません14。発症したとき（ほっぺたが赤くなったとき）にはすでに隔離の必要はありません14。

いかがでしょうか。「りんご病」というカワイイ名前からはビックリするくらいの複雑なメカニズムが動いていることがお分かりいただけたと思います。

伝染性紅斑の臨床経過は、ウイルス侵入から約2-3週間の長期にわたる過程を経て完成されます45。最も重要な点は、典型的な発疹が出現した時点では既に感染力がなく、最も感染力が強いのは発疹出現前の感冒様症状期であることです2 10。

避けることは難しいですが、妊婦さんはお兄ちゃん、お姉ちゃんが通っている幼稚園・保育園などで発生したという情報を得たら、マスクや手洗いなど徹底するようにしましょう。