はじめに
最近、「3種混合ワクチンが足りないから」という理由で、4種混合(ポリオ入り)、5種混合(ポリオ+Hib入り)を任意接種で打ちたいという希望があります(もしくは打っている医療機関も)。
しかし、法律で決められた使い分けを守らないと、思わぬトラブルやリスクにつながることも。
今回は、一般の方にもわかりやすく「なぜ使い分けるのか」「勝手に打ってはいけない理由」を解説してみたいと思います。
日本国内の百日咳ワクチンの種類と公費負担の区分
ワクチン名 | 含まれる病原体 | 負担の種類 |
---|---|---|
3種混合ワクチン (DPT) | ジフテリア・百日咳・破傷風 | 【定期接種】公費負担 【任意接種】自己負担 |
4種混合ワクチン (DPT-IPV) | ジフテリア・百日咳・破傷風 ・ポリオ | 【定期接種】公費負担 |
5種混合ワクチン (DPT-IPV-Hib) | ジフテリア・百日咳・破傷風 ・ポリオ・ヒブ(Hib) | 【定期接種】公費負担 |
- 定期接種用として国が予防接種法で指定しているのは3種・4種・5種混合
- 任意接種用として認可されているのは3種混合のみ
なぜ「勝手に」使い分けられないの?
1. 法律で決まっているから
予防接種法では、ワクチンの種類ごとに「いつ」「誰が」「どの費用負担で」打てるかが細かく決められています。
- 3種混合ワクチン:任意接種(自己負担)として唯一認められている
- 4種・5種混合ワクチン:定期接種(公費負担)としてのみ認められる
医療機関が法令と違う目的(たとえば自己負担の任意接種で4種・5種混合を使う)で接種すると、「定期接種を壊す行為」や「薬の正しい使い方を外れる行為」とみなされ、行政から指導や処分を受ける可能性があります。
2. 副反応の救済制度が使えなくなる
ワクチン接種で万が一重い副反応が起きた場合、定期接種・任意接種それぞれに対応した公的な救済制度があります。
しかし、法律で決められた用途から外れて打った場合、どちらの救済制度にも当てはまらず、経済的・医療的サポートを受けられません。
3. 医療機関や医師にとってもリスク
法令を無視した接種は「重大な過失」と見なされやすく、万一訴訟や行政処分に発展すると、医療機関・医師自身が不利益を被ることになります。
DPT以外の選択肢はないの?
日本では発売されていませんが、海外にはTdapという3種混合ワクチンがあります。
商品名は「Boostrix」といいます。
海外で承認されているワクチンに関しては、医療機関が国に正式に届出をすることで、輸入して接種することが可能です。
「Tdap」とネット検索すると多くの施設で導入されています(ぐんぐんでは現時点では行なっていません)。
ただし、接種可能年齢は10歳以上です。
費用は完全な自由診療ですので、8000〜15000円くらいの幅があるようです。
10歳以上のお子さんであれば、選択肢として検討するのも良いでしょう。
どうしたらいい?患者さんと医療機関へのアドバイス
- 患者さん向け
- かかりつけ医に「3種混合ワクチン」の在庫がない場合は、まずお近くの「かかりつけ医以外」にも在庫状況を問い合わせましょう。
- 「4種混合・5種混合ならありますが、どうしますか」と医療機関が答えてきた場合、副反応が出た際などの対応や保証についてきちんと確認しましょう。
- 上にあげたリスクは理解しつつも、どうしても接種したい場合は、メリットとデメリットを十分理解した上で、個人の責任のもと接種をご検討いただくと良いと思います。
- 日本では発売されていませんが、海外では「Tdap」という選択肢があります。
- 医療機関向け
- もし在庫不足に悩む場合は、市区町村の保健センターや製薬会社と連携し、3種混合ワクチンの調達ルートを確保してください。
- 患者さんから「4種混合や5種混合で接種してもらえませんか?」との問い合わせがあった場合、現時点では「法律で決まった使い分けがあるため、原則としてできません」とお伝えするほうが良いと思います。
- 患者さんへの説明時には「法律で使い分けが決まっている」ことと、「副反応が起きたときの救済制度の違い」をわかりやすく示す資料を用意すると良いかもしれません。(このブログをご紹介いただいても結構です)
- 可能であれば、Tdapの導入も検討しても良いかもしれません。
まとめ
- 3種混合ワクチンは「自己負担の任意接種用」
- 4種・5種混合ワクチンは「公費負担の定期接種用」ですので、任意接種として安易に使用することは避けましょう。
- 状況によっては、救済制度の対象外や行政処分のリスクがあります。
正しいワクチンを、正しいルールで受けることで、安心・安全な予防接種を行いましょう。