はじめに
お子さんの体に突然ブツブツが現れると、多くの保護者の方が不安を感じることでしょう。
そして小児科に連れて行ったら、ドクターから「原因は不明ですが、ウイルス疹ですね」と言われて、
「え?なに?原因不明?」
と余計心配になった経験ありませんか?
今回は、そんな「ウイルス性発疹症(ウイルス疹)」について、小児科専門医の立場から詳しく解説いたいと思います。
ウイルス性発疹症とは
ウイルス性発疹症とは、各種ウイルス感染に伴って生じる皮疹を主症状とする疾患です。
水痘・麻疹(はしか)・風疹・手足口病・溶連菌など診断名が明確につく感染症は色々ありますが、それら以外にも発疹が出現するウイルスはたくさんあります。
そう、つまり、ウイルス性発疹症とは
「病原体は特定できないが、隔離や出席停止が必要ない発疹」の総称
なのです。
「特定できない=未知のウイルス」という印象を抱いてしまうかもしれませんが、むしろ「特定する必要のない軽いウイルス感染」と考える方が正しいかもしれません。
小児期において極めて頻度の高い病態であり、特に集団生活を開始した幼児期以降のお子さんに多く見られます。
病因・原因ウイルス
ウイルス性発疹症の原因となるウイルスは多岐にわたります。
主な原因ウイルスは以下の通りです:
- エンテロウイルス属(エコーウイルス、コクサッキーウイルス等)
- アデノウイルス
- パラインフルエンザウイルス
- RSウイルス
- ヒトメタニューモウイルス
- ヒトボカウイルス
- パルボウイルスB19
これらのウイルスは、主に飛沫感染や接触感染によって伝播します。
臨床症状
皮疹の特徴
- 形態:紅斑、丘疹、水疱など多様
- 分布:顔面、体幹、四肢など全身に出現することが多い
- 経過:数日から2週間程度で自然消退
随伴症状
様々なウイルスの寄せ集めですので、それぞれのウイルス独自の症状が出ることがあります。
代表的なものは下記の通りです。
- 発熱(微熱から高熱まで様々):どのウイルスもありえます
- 上気道症状(鼻汁、咳嗽等):パラインフルエンザ・RSウイルス・ヒトメタニューモウイルスなど
- 消化器症状(食欲不振、嘔吐等):エンテロウイルス・アデノウイルスなど
- 全身倦怠感:どのウイルスもありえます
診断
ウイルス性発疹症の診断は、除外診断です。
除外診断とは、水痘や麻疹など比較的診断がつきやすい疾患を順番に除外していって、最後につく診断です。
主に臨床症状と経過から総合的に判断されます。
診断のポイント
- 病歴の聴取:発症の経過、周囲の感染状況
- 身体所見:発疹の性状、分布、随伴症状
- 血液検査:必要に応じて炎症反応の確認
- ウイルス検査:特定のウイルスの同定が必要な場合
これらを総合して、特別な治療や隔離が必要な疾患でないことを確定していきます。
治療・管理
ウイルス性発疹症は基本的に自然治癒する疾患であり、治療は対症療法が中心となります。
対症療法
- 発熱に対して:解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン等)
- 皮疹に対して:かゆみなどがあれば抗ヒスタミン薬、外用薬(必要に応じて)
- 全身管理:十分な水分補給、安静
家庭での管理
- 皮疹部位の清潔保持
- 掻破予防(爪を短く切る)
- 適切な室温・湿度の維持
- 十分な休息と栄養補給
受診の目安
以下のような症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。
緊急受診が必要な場合
- 38.5℃以上の高熱が持続
- 意識レベルの低下、ぐったりしている
- 呼吸困難、喘鳴
- 水分摂取困難、脱水症状
- 皮疹の急速な拡大、化膿
通常受診で良い場合
- 軽度の発熱、全身状態良好
- 皮疹はあるが機嫌が良い
- 食欲があり、水分摂取可能
予後・経過
ウイルス性発疹症の予後は一般的に良好です。
典型的な経過
- 発疹出現:感染後3-7日
- 発疹持続期間:数日から2週間
- 完全回復:2-3週間程度
合併症は稀ですが、免疫不全状態のお子さんでは重篤化する可能性があります。
感染予防
基本的な感染予防策
- 手洗い・うがいの徹底
- マスクの着用(症状がある場合)
- タオル・食器の共有を避ける
- 適切な換気の実施
登園・登校について
発熱や全身状態不良がなく、発疹のみの場合は登園・登校可能とする場合が多いですが、各施設の方針に従ってください。
鑑別診断
ウイルス性発疹症と類似した症状を呈する疾患として、以下があります:
- 細菌感染症(溶連菌感染症等)
- 薬疹
- 川崎病
- 麻疹、風疹などの特定のウイルス感染症
適切な診断と治療のため、症状が続く場合は医療機関での診察を受けることが重要です。
まとめ
ウイルス性発疹症は小児期によく見られる疾患であり、多くは自然治癒します。しかし、お子さんの症状を注意深く観察し、心配な症状があれば早めに小児科専門医にご相談ください。
適切な知識と対応により、お子さんの健康を守り、保護者の皆様の不安を軽減することができます。不明な点がございましたら、遠慮なくかかりつけの小児科医にお尋ねください。
参考文献
- 日本小児科学会:小児感染症診療ガイドライン
- 厚生労働省:感染症発生動向調査
- 小児科診療:最新の診断・治療指針